大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和38年(ラ)64号 決定

抗告人 中原タマ(仮氏)

主文

原審判を取消す。

抗告人の名「タマ」を「伊久恵」と変更することを許可する。

理由

本件抗告の趣旨およびその理由は別紙記載のとおりである。

按ずるに抗告人が原審及び当審において提出した各疏明資料並に当審における抗告人本人の審尋の結果を綜合すると、抗告人は中原演芸社の商号を以て演芸の仲介業を営む者であるところ、昭和一五年一〇月頃姓名判断に因り事実上「伊久恵」と改名し、爾来右営業については勿論、生活の全般に亘つてつねに「伊久恵」の通称を用い来り、所有不動産の登記簿にも、右通称の記載がなされている為これに関する納税も「中原伊久恵」名義でなしており、本名「タマ」の名は僅かに戸籍簿及び住民票に残されているのみという状況であつて営業及び財産管理上右通称に改名の必要を痛感していることを認めることができるので、右のように当初の改名の動機がたとい姓名判断にいでたとしても、既に抗告人が二十数年の長期に亘つて営業上、生活上の全般につき「伊久恵」の通称を使用し、所有不動産の登記も右通称を以てなされているというのであるから、抗告人の望む如く現実に合わない本名「タマ」を通称「伊久恵」に改名せしめても、社会一般に弊害を及ぼすものとは認められない。従つて本件は戸籍法一〇七条二項にいう名を変更するにつき正当な事由がある場合に該当するものというべく、抗告人の本件名の変更はこれを許すべきものであるのに、原審判がこれと反対の見解を採り、抗告人の本件名の変更申立を却下したのは失当であるから本件即時抗告は理由があり、かつ当裁判所は、みづから審判に代る裁判をするのを相当と認め特別家事審判規則一条家事審判規則一九条二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 高次三吉 裁判官 木本楢雄)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例